トリウム原子力発電の可能性を探るため、前回までの記事で、ウラン235を用いた原子力発電のバックエンド問題を扱ってきました。そこで浮上してきたのは
『核反応を起こせば、どう加工しようとも核廃棄物は半永久的になくならない』
という事実です。そして、廃棄物問題において、トリウムを用いた原発の利点として主張されてきたことは、
①ウランと異なりプルトニウムが発生しない。
②燃料として濃縮しないので放射性廃棄物が圧倒的に少ない。
ということでした。これらが果たしてそうなのか、具体的に検討していきましょう。
☆☆☆プルトニウムがでないから安全であるというトリウム推進論者の主張は詭弁ではないだろうか
☆トリウム発電ではプルトニウムはでないが他の核分裂生成物は発生する
これまでウラン235を用いた原発では、核兵器への転用が容易であることや体内で内部被曝をしガンになる恐れがあるため、プルトニウムが発生すること自体が最大の問題であると取り上げられてきました。しかし、それ以外にも核分裂生成物は発生し、似たような毒性を持っています。つまり、プルトニウムのという言葉は原発の危険性を主張するための象徴言語に過ぎなかったといえます。
☆問題は放射性廃棄物がどのぐらい発生するのかということ
他の核分裂生成物が発生するにもかかわらず、プルトニウムがでないからといって危険性がないというのは詭弁です。ちなみに故高木仁三郎氏の「プルトニウムの恐怖」ではプルトニウム以外の広範な危険性を論じています。つまり、問題は放射性廃棄物がどのぐらい発生するのかということです。
☆☆☆ウランとトリウムではどんな放射性廃棄物がどのくらいでるのか
それでは、ウラン235を用いた軽水炉とトリウム熔融塩炉の核廃棄物の発生量を比較していきましょう。
☆ウランはほとんどが未反応物であり、トリウムはほとんどが核分裂生成物となる
下図は、以前、このシリーズのはじめにUPしたウランとトリウムの天然資源から核反応後までの成分構成を比較したものです。
『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電3 核化学反応におけるウランとトリウムの比較 http://blog.sizen-kankyo.net/blog/2010/02/000684.html 参照
図のⅠ欄は核反応する物質が天然に存在する段階。Ⅱ欄はⅠを加工して核燃料とした段階。Ⅲ欄は核反応後の物質の構成比をそれぞれ示しています。
ウランの場合、天然ウランの中で核分裂可能なものは0.7%のウラン235です。それを3%に「濃縮」することで核燃料として使えるようになります。そのため、天然ウランの中の不要なウラン238を取り出し廃棄することとなります。更に炉の中で核反応を起こさない97%のウラン238はその2%分がプルトニウムに変化しますが、残り95%は、未反応のまま廃棄されることとなります。
トリウムの場合は、そのままでは核燃料とならないので、中性子を注入する「核スポレーション」という前処理を行ってウラン233に88%が変換します。このため「濃縮過程」が必要ありません。核反応を起こすのはこのウラン233の88%×89%=78.3%で、これが核分裂生成物に変化します。残り88%×11%=9.7%はウランの同位体である放射崩壊物となります。
ウラン、トリウム共通して下記の特徴があります。
原子力発電所の中で核燃料を反応させた後は、さまざまな放射性廃棄物が生成されます。ここで、質量がエネルギーに変わるのはほんのわずかですから、物質の殆どが放射性廃棄物として残ると考えていいでしょう。その中でも、図中の濃いブルーの部分がエネルギーに変わる核反応を起こします。それは、物質変化を伴う反応で多数の放射性物質になります。このなかには、『毒性が強い』『遮蔽が困難』など、人間にとって危険な元素に変わってしまったものもたくさんあります。
☆核反応する物質だけで比較する必要がある
炉や核物質の違いで核反応しない不純物を含めた核燃料での比較では、核分裂生成物などの正確な比較ができません。実際、ウラン燃料ではその95%も反応しない不純物があり、トリウム燃料では12%が反応しない不純物となります。したがって、炉のなかで核反応を起こす物質のみの比較をすることが必要です。上図の濃いブルーで示した比較対照部分となります。
☆核反応を起こす物質のみでウランとトリウムを比較するとトリウムは核分裂生成物はウランの1.3倍となる
下図も以前UPしたものに手を加え、上記の理由からウランとトリウムで核反応をしない分を除いた対照部分を同じ質量とした場合で生成量の比較をしました。ウランはウラン238の95%を除いた残り5%を100kgとし、トリウムはトリウム232の12%を除いた88%を100kgとした比較です。プルトニウム以外の核分裂生成物に焦点をあてると、ウラン:トリウムの核分裂生成物の生成比は68:88.95≒1:1.3となります。「同質量ならばウランよりもトリウムのほうがの高レベル放射性廃棄物が多い。」ということです。これが高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体となるのです。
表について補足しますと、前提として、ウランは固体燃料の軽水炉の運転実績から計算し、トリウムは古川和男氏によるトリウム熔融塩炉の推定値を元に計算しています。
『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電3 核化学反応におけるウランとトリウムの比較 http://blog.sizen-kankyo.net/blog/2010/02/000684.html 参照
元素種別と放射線について、核反応をした物質を2種類に分けています。放射崩壊物とは、核分裂はしていないものの原子炉内で発生した中性子を吸収して別の元素に変化した不安定な物質です。安定した元素になるまで放射能を発生させ続けます。次に、核分裂生成物とは、核反応によってウランやトリウムなどの元素が分裂してできた物質です。同じように放射能を発生させて安定した物質となります。
☆☆☆トリウム発電も核反応を起こせば放射性廃棄物が発生し、半永久的になくならない。
これまでのことから、炉の違いや核物質が違っていても核反応を起こせば放射性廃棄物が必然として発生し、半永久的になくならないという事実がわかりました。前回の記事を改めて引用します。
放射性廃棄物は、無害化するまでの途方もない期間、人間の暮らす空間から隔離しておかなければなりません。放射性廃棄物が増えて蓄積されるということは、、「隔離された閉塞空間」が地球上に増え続けることに他なりません。それは同時に、その様な閉塞空間で核のゴミを管理する人間を増やすことを意味します。その様な息苦しい管理社会で、社会の活力が生み出されることはありません。つまり、効率だけを考えて原子力発電を続ければ、確かに目先のエネルギーを得ることはできますが、それと引き換えに、、急速に閉塞空間が増えていき、社会活力の衰弱が進行していくのです。
次代を担うエネルギー・資源 トリウム原子力発電11 ~地球の物質循環から切り離された廃棄物の増量→蓄積の危機~ http://blog.sizen-kankyo.net/blog/2010/07/000750.html
結局 トリウム溶融塩炉も核廃棄物問題はウランと同じことであるといえます。
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