先日、電車やバスの中で席を譲ることについて書きました(こちら)。ご高齢の方について書いたのですが、席を譲られていい方がたは、ほかにもいます。ちいさな子ども、赤ちゃんを抱っこしたお母さんやお父さん、そしておなかの大きな女性です。私の兄嫁は妊娠中、乗っていたバスがおおきく揺れ、とっさにおなかをかばおうとしてポールで上腕を強く打ち、そこが悪性腫瘍になって亡くなりました。幼い子どもを遺して。
私自身、30年以上前になりますが、妊娠したとたん、ちいさな子どもを連れて歩くようになったとたん、社会の冷たさが身に染みました。この社会は女性に冷たい、とくに子持ちの女性には……その頃、頭の中で自動無限リピートしていた「呪文」です。今、少子化が心配されていますが、こんなに子どもや母親に冷たく当たる社会が、子どもが減ってあわてても、それは自業自得でしょうと言いたくもなります。子ども手当は、子どもや子育てへの冷淡さを改めて、より好ましい方向に社会の意識をもっていくための、インパクトのある政策だと思います。けれどそれだけでなく、助産師さんや産科のお医者さん・看護師さんへの厚遇、保育園不足の解消、ゼロ歳児保育や病児保育の充実、学校以外でも子どもが成長できる機会の提供などなど、子どもや子どもを育てる人びとにもっともっとあったかい施策が必要です。
それでも、赤ちゃんやお母さんを死なせないということでは、このくには長足の進歩を遂げました。妊産婦や新生児の死亡率の低さは世界で1、2を争うほどです。産科小児科の危機がもろに数字に反映して、それも危ういのが現実ですが、ともあれ、戦争直後には48人に1人のお母さんが、今ならどうということもない出産事故で命を落としていたことに比べたら、まさに隔世の感です。私もその頃の生まれですが、クラスに1人や2人はお母さんのいない子がいました。
江戸時代は、おそらく出生10万人あたり500人とか、そのくらいたくさんのお母さんが亡くなっていたでしょう。粉ミルクなどなかった時代です。もらい乳は珍しいことではありませんでした。子育てが近隣の助け合いなしにはありえなかったというのは、今考えればいいことでもあったでしょうが、それが母の死を前提にしていたのは、やはり悲しいことです。遺された夫の再婚も、幼い子どもたちの養育のためという面がおおきかったのです。
子どももよく死にました。7歳までは神の子と見られていて、産土神(うぶすながみ)がかわいいと思った子どもを手元に引き取るのだとして、子どもの死という悲しい体験を受け入れていました。ですから、子どもが死んでも、地域によってはお寺の墓地には葬りませんでした。七五三は、3歳5歳の節目にお宮に参って、子どもを取り上げないよう神さまにお願いする、7歳になったら子どもを人間社会に引き取るにあたってのお礼参りをするという行事でした。
家族が死ねば、人はもちろん悲しみます。けれど、いつまでも悲しんで仕事もしないのでは、生きていけません。それで、人は気持ちを切り替えます。「子どもはまたつくればいいんだ、女房はまたもらえばいいんだ」と。その気持ちの切り替えを少しでも楽にするために、常日頃から「女子ども」という言い方に明らかなように、女性や子どもの命を、人格を軽んじたのです。「女子ども」という言い方には、悲しい心のトレーニングという合理的な機能があったのです。
子どもや女性が人権を軽んじられないためには、ですから、まずは死なないことが重要です。それだけでは必要十分ではないことは、この社会を見れば明らかですが、それでも、とにかく死なないことがたいせつです。ところが途上国では、出生10万人あたり450人のお母さんが亡くなっています。100年前、イングランドとウェールズの妊産婦死亡は355人、スコットランドは572人、アイルランドは531人でした。21世紀になったというのに、途上国では100年前のイギリスと同じくらい、あるいはそれ以上にたくさんのお母さんが亡くなっているのです。サハラ以南のアフリカはさらに深刻で、統計すらない国も多く、統計がある国々を見ると、ガーナが560人、チャドが1500人です。
じつに1分に1人、年間536,000人のお母さんが、幼い子どもを遺して死んでいます。遺された子どもの死亡率は、10倍にはねあがるそうです。こうした現実に呼応して、途上国では「女子ども」の人権は羽毛のように軽く、女であり子どもでもある少女ともなると、水汲みにはじまる家事に追い立てられる存在でしかないこともしばしばです。
そんな現状をなんとかしようと、国連人口基金が、「お母さんの命を守るキャンペーン」を展開しています。私もサポーターです。「サポーターのひとこと」に書ききれなかったことを、ここに書きました。あなたも、よろしかったらサポーター登録してください。
2010年4月4日日曜日
池田香代子ブログ : 1分に1人お母さんが死んでいる 国連人口基金キャンペーン
via blog.livedoor.jp
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