2015年4月11日土曜日

防衛省ヒアリングで明らかになった沖縄防衛局「環境監視等委員会」の機能不全

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まさのあつこ | ジャーナリスト

2015年4月11日





4月7日、衆議院議員会館での「辺野古の海を守る緊急シンポジウム」で、防衛省ヒアリングが行われ、日本自然保護協会で海洋環境学が専門の安部真理子さん(写真右から3人目)が事前提出した質問に沿って、防衛省経理装備局施設技術課の深和岳人さん(施設技術官付)が回答を行った。



質問の軸は、防衛省の沖縄防衛局が辺野古の埋立の申請を沖縄県に行ったときに「留意事項」とした「環境保全措置」がどう守られており、そのために沖縄防衛局が設置した環境監視等委員会がどう機能しているかである。



環境監視等委員会は、2014年4月の初回以来、非公開で、事後も資料と共に発言者名のない議事要旨しか公開されない。そのため地元住民が傍聴や議事録公開を要請し、日本自然保護協会も委員の専門分野や選考過程を明らかにするよう要請してきたが、実現していない。今回のヒアリングは議事概要や資料では確認できない事項を質すものとなった。以下のような多くの点が明らかにされた。



1.サンゴ類や海草の移植技術は未確立

日本自然保護協会は、サンゴ類や海草(うみくさ)などの移植技術は未確立であるにもかかわらず「移植以外」の保全措置が示されていないと指摘、防衛省の見解を尋ねた。



防衛省側は「環境影響評価書においても、サンゴや海草の移植の技術は十分に確立されたものではないとされた」と認め、「最大限のことをやっていく。環境監視等委員会にお諮りして対応する。サンゴについてはブロックやケーソンに着床しやすい凹凸物や突起物を付け、新たな生息環境を構築したい」と回答した。



日本自然保護協会は、沖縄防衛局が公表した「ボーリング調査に伴う環境の保全措置の実施状況 中間報告(平成27年1月6日)」をもとに、すでに多くの生物種から特定の種のみを選んで移動させているが、選ばれなかった種を含め、責任の所在を質し、環境影響評価や委員会資料では移動・移植先に与える影響予測は行われていないことも問題視した。



これに対し、防衛省は「環境監視等委員会から適切なアドバイスをいただくが、責任の所在は沖縄防衛局にある」と回答。安部さんが「議事要旨では『適切なアドバイス』が不明だ」と指摘すると、「主に移動能力の低いもの、重要な種について、適した場所に移植する」と回答した。しかし、「それは誰の考えか」とさらに質されると、それが沖縄防衛局が環境影響評価書に書いた保全措置であり、その手段や内容等については沖縄防衛局が考え、環境監視等委員会に諮っていることを明らかにした。



2.議事要旨では環境監視等委の役割は不明

議事要旨からは多くの点が分からないことについて、同席した赤嶺政賢議員(写真右から4人目)は「環境影響評価にあたり、沖縄県は1500もの意見をつけた。その意見に答えきれず、環境保全について回答不能だったから、(沖縄防衛局は)環境監視等委員会を設置すると先送りをした。環境監視等委員会は埋立承認をするにあたっての沖縄県からの条件でもあった。決定的な役割を負わされているというのに、今度は環境監視等委員会が全面公開されない。そういう状態は、埋立承認の手続に瑕疵ありということになる。公開しなければ取り消す、埋立承認撤回ということになる」と指摘した。



ところが、この指摘に防衛省は「今のご指摘の件は、第2回の議事要旨の公開が遅くなったことをご指摘かと思う。第3回は速やかに対応した」とはぐらかした。



また、安部さんは、海草の移植先は、赤土の流入があり根付かない場所だが、詳細な検討が環境監視等委員会でなされていないと指摘。防衛省は、赤土の流入は「我々だけではどうにもならない。大所高所から別途議論される必要がある」と回答。しかし、「大局的にというのであれば、関係する県や事業に声をかけて、複合的な影響評価をしようと動いているか」と問われると、防衛省は「一事業者として進めているので、そこまでは手が広げられない」と「別途議論」は存在しないことも露呈した。



3.絶滅危惧種が永久に失われる可能性

この海域には、海藻ウミボッスなど4つの新種が発見されているが、移植の対象となっていない。そのため、埋立で永久に失われる可能性があるが、時期を選ばないと見つからないという難題が問われた。この指摘に防衛省は、「(移植に適しているのは)5月ぐらいまでだが、今回はやっていない。工事が行われるまでの間に行う」と回答。これに「今行わず、8月からの工事に入るのでは、いつ適切な時期があるのか」と問われると、「一気に土砂が入るわけではないので適切な時期はまだまだある」と言い逃れた。



「まだチャンスが残っているような言い方だが」と赤嶺議員に指摘されると、防衛省側は「ここだけに生息しているわけではない。生息分布の高い場所があると我々は把握している」と述べ、これには、安部さんが、たまりかねたように、「生き物の生息分布は、環境監視等委員会の資料でも、環境影響評価書でもマスキング(黒塗り)されているので、私たちには知ることができない。環境監視等委員会でもきちんと議論されたように見えない」と指摘。本来は、環境保全を託された環境監視等委員会が議論すべきことがされていないことへの苛立ちが、冷静な議論のなかにも垣間見られた。



議論があっても議事が非公開では、永久に失われかねないとの懸念に対し防衛省は説明責任を果たせない。



4.ジュゴン保全の科学的な根拠不在

ジュゴンの保全措置についても、どのように不十分であるかの一端が明らかになった。保全措置の一つに海草移植があるとされているが、ラムサール・ネットワーク日本の花輪伸一さん(写真右から2人目)によれば、「海草移植技術は、どこかに持っていくためのものではなく、海草があるところをモーターボートが削ったあとを直すのが移植だと言われている」との指摘が行われた。



環境監視等委員での移植先の提案は、嘉陽の海岸(辺野古の北東部)であり、「嘉陽にはすでに海草あるのにさらに移植する」意味を問われることとなった。



防衛省側は「ジュゴンによる食み痕(はみあと)があるからだ」と答えたが、「食み痕があるということは海草がすでにあることを意味する。そこに移植とはどういうことか」と繰り返し問われると、「適しているから」としか回答がない。花輪さんからは、「沖縄島で最大の辺野古の藻場が(埋立で)20%近くが失われる。嘉陽に移植するなら、どれだけジュゴンの生存の利点になるか、辺野古ではどれだけマイナスになるのか、委員会に諮問すべきだ」との要請が行われた。



また、環境監視等委員会の議事要旨には、椰子マットにリュウキュウスガモ(海草)を植えるとあるが、ジュゴンは根から海草を食べるので、それでは食べられないと指摘されると、防衛省は「まずは根付くことが大事」と回答。安部さんは「具体的な数値がなければ、どうジュゴン保全に結びつくか分からない。取組事例を示した論文や報告書をいただきたい」と科学的な根拠を求めた。防衛省側がこれに「私自身が勉強していきたい」と誤魔化すと、赤嶺議員が「貴方の勉強を待てない。あれば直ちに出すように」と要請した。



5.航行18ノット以下の指示しておらず

現在、辺野古の海域では、海上保安庁など多くの船が猛スピードで航行している。ジュゴンは騒音に弱く、船との衝突も懸念されている。この点について、防衛省は海上保安庁や現場の沖縄防衛局に何ノットでの航行を指導しているかと問われても、「十分な配慮」としか回答できなかった。



実は、沖縄防衛局は、自ら環境影響評価書で「18ノット以下での航行」を保全措置としている。しかし、防衛省の回答は「事業実施と、環境保全と、安全確保の3つを両立させる」というものにとどまり、環境影響評価法の違反が強く疑われることとなった。



花輪さんは、共同通信が情報開示請求で得た情報をもとに書いた記事を紹介し、「防衛省が環境調査を行った際、ヘリコプターでジュゴンを発見、追跡し、船に遭遇してジュゴンがどう動いたかが分かっている。公開された環境影響評価書には載っていないが、委員会にこのデータを提供し、船の航行がジュゴンにどう影響するかを検討してもらうべきだ」と助言した。



6.サトウキビ食害懸念の外来種対策不明

外来種の侵入防止対策については、19学会が「著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19学会合同要望書」を環境監視等委員会に提出している。しかし、議事要旨によれば、紹介のみで終わっており、「他の専門家意見を議論せず終いでは問題がある」と指摘された。これに対し防衛省は「他の委員に感想、意見を伺ったと聞いている」と回答したが、安部さんは「議事要旨にない」と非公開問題として指摘した。



環境監視等委員会では、唯一、外来種問題の専門家と思われる委員が3回とも欠席しており、この問題に対応が可能なのかとの疑義も明確になった。自然保護協会の保護・研究部の志村智子部長(写真右から5人目)は、埋立土砂への外来種混入問題について、「私たちが懸念しているアルゼンチンアリは、サトウキビにとっての食害リスクだ。沖縄の産業に多大なリスクを負わせることになる」と懸念の背景を明らかにした。



この環境監視等委員会の副委員長である昆虫学を専門とする東清二・琉球大学名誉教授は、「監視委では環境保全ができない」(*1)として辞任したが、この問題をどう捉えているのかとの問いも投げかけられた。防衛省はコメントを控えるとしたが、環境監視等委員会の機能問題を深刻視していない性質が露呈した。



7.コンクリートブロック(45トン)投入の可否は諮っていない

沖縄防衛局が、沖縄県の岩礁破砕許可を得て沈めた20トン~45トンのコンクリートブロックが、許可区域外の岩礁を破損している問題については、判断に必要な情報が、環境監視等委員会には提供されていなかったことが明らかになった。



「どのようにして45トンのコンクリートブロックを投入することになったのか」との質問に、防衛省は「サンゴの被度が5%以上を超えないところ、長径が1メートルを超えるサンゴがないところにする、と委員会に説明して了解いただいた。その後、ブイが流されないよう、潮流や波浪がどれだけのものになるか、事業者で検討して(コンクリートブロックを)設置した」と回答した。



「45トンを投入しても良いかは聞いていないのか」「潮流や波浪を加えた情報を提供していないのか」と問われても、同じ回答の繰り返しで、唖然とした様子の安部さんに「そういうことは委員に諮るべき。そうでないと委員の先生方も環境保全に責任を持てない。那覇空港のコンクリートブロックはほとんど1トンで、多少3トン程度のものが混じっている程度だった。45トンとは与える影響が違う」と指摘されると、「45トンは単純に1トンの45倍ではない」と意味不明な抗弁が防衛省からはあった。



さらに呆れた様子の辻村千尋さん(日本自然保護協会、写真左)から「すべての問題を突き詰めていくと、科学的議論ができていないということになる。私たちは科学的バックボーンを示して質問している。それに対して『アドバイスを受けてやっている』では、科学的な回答ではない。コミュニケーションが成立していない。議事録を公開して、何を諮り何が議論されたか、科学的検証に耐えうる状態で出していただきたい。必須条件だ」と指摘されると、会場からは拍手がわき起こった。



8「検討」むなしく、非公開で第4回環境監視等委員会開催

防衛省は「検討する」と回答したが、このヒアリングの翌日に、わずか1日置いた4月9日に環境監視等委員会の第4回会合がまたしても非公開で開かれるとの情報が入ってきた。終了後に行われた記者会見などで、沖縄防衛局が2月に自ら行った調査で、94群体のサンゴがコンクリートブロックで破壊されていたことが、地元紙の報道(*2)を通して明らかにされた。



日本は「生物多様性条約」の締約国会議で、議長国として「愛知目標」を採択したこのままでは政府自ら「目標10:脆弱なサンゴ礁などの生態系への悪影響を最小化する。目標12:絶滅危惧種の絶滅・減少を防止する。目標9:侵略的な外来種を制御し、または、根絶する」の3つを破ることになると指摘されている(こちらに関係記事)。今、抜本策に転じなければ、このままでは是正は困難である。



'''4月14日(火)には13時から衆議院第一議員会館大会議室で、「辺野古の海を守る緊急シンポジウム ~環境省ヒアリング」が開催される予定である。

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(*1)国の環境監視副委員長が辞意 辺野古「保全できない」(琉球新報2015年3月11日)

(*2)ブロック設置でサンゴ94群体破壊 国監視委が批判(琉球新報2015年4月10日)





まさのあつこ

ジャーナリスト

ジャーナリスト。1993~1994年にラテン諸国放浪中に日本社会の脆弱さ に目を向け、帰国後に奮起。衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学 大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。著書に「四大公害病-水俣 病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害」(中公新書、2013年)、「水資 源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館、2012年)など。



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