ついに、食品中の放射性物質についての新基準値の全貌が明らかになりました。
「 飲料水 」 :10Bq/kg
「一般食品」 :100Bq/kg
「 牛乳 」 :50Bq/kg
「乳児用食品」 :50Bq/kg
その特徴は、Cs(セシウム)とSr(ストロンチウム)だけでなく、Ru(ルテニウム)とPu(プルトニウム)も含めて、今後100年間、1年間あたりの経口摂取による実効線量が1mSv/year以下になるように決められました。その導出方法は以下の資料にあります。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001yw1j-att/2r9852000001yw6t.pdf
この資料から、新基準値では暫定基準値と比べてかなり多くのことが考慮されていることが分かります。たとえば、年齢の細分化、土壌から農畜産物への移行係数など。
ただ、「導出についての資料」では、1番重要な式が誤植となっているため
( http://twitter.com/#!/MAKIRIN1230/status/149996206112772096
http://twitter.com/#!/MAKIRIN1230/status/150003320327647232 )
、暫定基準値の算出根拠を確認したことがない人にとっては、計算が辿れない可能性があるので、解説したいと思います。だたし、一度に全部を書くとかなり長くなるので、今回は「飲料水」だけに話を限定したいと思います。また、より分かり易く意味付けできるように「導出についての資料」とは式のまとめ方を変えています。
「飲料水」については、WHOが示している基準に沿って、基準値を10Bq/kgとする(年間実効線量を約0.1mSv)という感じで、基準値が先に決められました。その1年あたりの実効線量は事故後1年から2年までの値では、「導出についての資料」の表8-1~表8-10より、
3ヶ月(1歳未満) 男女共通:0.094mSv/year
5歳(1~6歳) 男:0.084mSv/year、女:0.084mSv/year
10歳(7~12歳) 男:0.090mSv/year、女:0.090mSv/year
15歳(13~18歳) 男:0.12mSv/year、女::0.12mSv/year
成人(19歳以上) 男:0.11mSv/year、女:0.11mSv/year
妊婦 0.11mSv/year
となっており、男女差はないことがわかります。 したがって、今回は男性の場合についてのこの値を調べることにします。また、事故後1年から2年までではRuとPuの実効線量への相対的な寄与は小さい(100年後ではCsSrの量が減少しているためPuの相対的な寄与は大きくなる)ので、今回の計算ではCs137とCs134とSr90だけを考慮するとことにします。
●添え字の割り振り
n=1,2,3
とし、1はCs137、2はCs134、3はSr90に対応させることにします。
●半減期Tnと崩壊定数λn
λn=ln2/Tn
という関係があります。したがって、
Cs137:λ1=ln2/(30.2year)≒0.0230/year
Cs134:λ2=ln2/(2.06year)≒0.336/year
Sr90:λ3=ln2/(28.8year)≒0.0241/year
となります。
●初期淡水中濃度比Inと事故後1年から2年までの平均淡水中濃度比Sn
「導出についての資料」の表7より、
I1=1.0
I2=1.0
I3=0.020
となっています。したがって、T0=1yearとすると、
Sn=In×{exp(-λn×T0)-exp(-2×λn×T0)}/(λn×T0)
で与えられます。したがって、
S1=1.0×{exp(-0.0230)-exp(-0.0460)}/0.0230≒0.970
S2=1.0×{exp(-0.336)-exp(-0.672)}/0.336≒0.607
S3=0.020×{exp(-0.0241)-exp(-0.0482)}/0.0241≒0.0193
です。
●Cs137とCs134のベクレル数の和が1Bqになる年間平均濃度比Fn
Fn=Sn/(S1+S2)
で与えられます。したがって、
F1=0.970/(0.970+0.607)≒0.615
F2=0607/(0.970+0.607)≒0.385
F3=0.0193/(0.970+0.607)≒0.0122
となります。
●年間平均のCs137とCs134のベクレル数の和が1Bqあたりの実効線量H
H=D1×F1+D2×F2+D3×F3
で与えらます。ここでDnは経口摂取による実効線量換算係数で、「導出についての資料」の表6に各年齢の値はまとめられています。
・3ヶ月
H=(2.1×0.615+2.6×0.385+23×0.0122)E-5mSv/Bq
≒2.57E-5mSv/Bq
・5歳
H=(0.96×0.615+1.3×0.385+4.7×0.0122)E-5mSv/Bq
≒1.15E-5mSv/Bq
・10歳
H=(1.0×0.615+1.4×0.385+6.0×0.0122)E-5mSv/Bq
≒1.23E-5mSv/Bq
・15歳
H=(1.3×0.615+1.9×0.385+8.0×0.0122)E-5mSv/Bq
≒1.63E-5mSv/Bq
・成人
H=(1.3×0.615+1.9×0.385+2.8×0.0122)E-5mSv/Bq
≒1.57E-5mSv/Bq
となります。
●飲料水の基準値Xwとその摂取量Aw
Xw=10Bq/kg
となっています。また、「導出についての資料」の表5(1番下の段)により、
3ヶ月: Aw=1.0kg/day=365kg/year
それ以外: Aw=2.0kg/day=730/year
として「飲料水」による実効線量は算出されています。この値は、暫定基準値で用いられた値と比べるとかなり大きいです。
●飲料水による1年あたりの実効線量Bw
Bw=H×Xw×Aw
で求められます。
・3ヶ月
Bw=2.57E-5mSv/Bq×10Bq/kg×365kg/year≒0.094mSv/year
・5歳
Bw=1.15E-5mSv/Bq×10Bq/kg×730kg/year≒0.084mSv/year
・10歳
Bw=1.23E-5mSv/Bq×10Bq/kg×730kg/year≒0.090mSv/year
・15歳
Bw=1.63E-5mSv/Bq×10Bq/kg×730kg/year≒0.12mSv/year
・成人
Bw=1.57E-5mSv/Bq×10Bq/kg×730kg/year≒0.11mSv/year
となり、再現できました。このことは、事故後1年から2年の間では、飲料水に対するRuとPuの実効線量への寄与は無視できるということを意味します。
●飲料水以外に割り当てられる1年あたりの実効線量Cw
Bw+Cw=1mSv/year
という関係よりCwを決定します。
・3ヶ月
Cw=1mSv/year-0.094mSv/year≒0.91mSv/year
・5歳
Cw=1mSv/year-0.084mSv/year≒0.92mSv/year
・10歳
Cw=1mSv/year-0.090mSv/year≒0.91mSv/year
・15歳
Cw=1mSv/year-0.12mSv/year≒0.88mSv/year
・成人
Cw=1mSv/year-0.011mSv/year≒0.89mSv/year
となり、これらを基に「一般食品」の基準値を決定します。
via renormalization http://ameblo.jp/makirin1230/entry-11116095905.html