2010年10月2日土曜日

樋口健二氏講演「ヒバク~放射能の恐怖」(3)第5福竜丸以外にも1000隻近く被曝

最初の頃、被曝労働の話をしたら、総評の連中、今の連合ですが、何だそりゃって言ってましたよ。連合はだめですよ。原発をやれと言ってるんですから。労働者が今や労働者を守らないとは何なんでしょう。許しがたいですね。

 さて、話をもどしますと、今、原発は53基あります。1995年時点で53基です。僕は写真学校や、ジャーナリストの学校で学生たちに教えるんですが、学生に原発はいくつあるかときくと、大概は15基か、多くて25基くらいかなと返事が返ってくるんです。

 「バカ、53基あるんだって」言うと、「え、そんなにあるんですか」っていうから、「そんなにあるんですかってもんじゃない、日本中埋め尽くしてるんだ」って言うと、学生たちはびっくりしてますね。そう、無関心なんですよね。この無関心が一番の敵なんですね。

 さて、原子力は「平和利用」、「安全」で「クリーン」というこの安全神話を誰が作ったんだといえば、マスコミが作ったんですよ。コンピュータ・ルームだけをテレビは映してたんですよね。

 たしかにコンピューター・ルームには被曝労働者なんていませんよ。エリートが座って壁を見てるだけですよ。これだけを写したら現代の科学の粋を集めた結晶ですよ。ところが、この向こう側に、労働者が大量に放り込まれてるんですよね。このことについては、もう少しあとから話しますね。

 さて、原子力が今このように広がって、次にプルトニウム社会を迎えたんですね。「もんじゅ」(高速増殖炉)がナトリウム火災事故を起こしてしばらく止まってたんですが、先日の最高裁で運転再開が決まりましたね。何を考えてるんですかね? 原子力はやめなきゃならない時代が来てるのに、「もんじゅ」はいい、やれやれなんて言って。政治の世界も、司法の世界も何も考えてない。つくづくそう思います。

 1966年から日本の社会ががっちりできてしまったんですよ。大切なのは経済なんですよね。エネルギーでもなんでもない。原発はただのエネルギー産業ですよ。この原子力の時代が日本では長すぎる。外国ではもう原子力はやめましょうと、ほとんどの国がやめてるじゃないですか。

 ドイツなんかすごいですよ、あっさり原発をやめたんですから。そのドイツの人たちが私に賞をくれたんですよ。国内と外国で一生懸命、被曝問題をやってるからということで。なのに日本では無視してるんですから、どうにもなりませんね。

 さて、原発ですが、電力会社の言い分では原発を改良したんですって。電力会社に行って話しを聞いたら、改良しましたって言うんだから。つまり、原発は最初、アメリカから輸入されたんですよ。なんでこんなもの輸入したと思いますか? 誰がこんなものを持ってきたんでしょう?

 一番先に、原子力で市民権を得た男がいたでしょう? かっての読売新聞の社主ですよ。正力松太郎。あれはA級戦犯ですよ。戦後、追放されてたんですよ。それで、なんとか自分の市民権を得たい、と考えたんですよ。で、何をいちばん最初に考えたと思います? 野球ですよ。戦後、アメリカからシールズっていう二軍の球団を連れてきたんですよ。みんな喜びましたよね。私もよく憶えてるんですが。そうやってアメリカの野球を日本に紹介した。これで名を挙げたんだよね。

 それともうひとつ、原発を持ってきたんですよ、あの男は。これで完全に市民権を得たんですよ。これで公職追放が解けたから、偉ぶりはじめたんですよね。これに田中角栄とか中曽根とか、首相になるような連中がついてくるんですよね。

 さて、アメリカに二大原子力産業があることを皆さんご存知でしょう。ゼネラル・エレクトリック(GE)とウェスチング・ハウス。それぞれが沸騰水型軽水炉と加圧水型軽水炉を作った。ちなみに関西電力は加圧水型ですね。

 ゼネラルはモルガン財閥、ウェスチングはロックフェラー財閥の傘下なんですよ。電力会社が原発を動かしてるわけじゃない。どこの国でも財閥がやってるんですよ。

 ところで、なんでこんなもの造ったと思いますか? 原発っていうのはつまり核実験ですよ。アメリカは太平洋で核実験を130回以上やってるでしょ。南太平洋なんかで。それで、国際世論が、核実験をやめろと言ったんですよね。

 そのいちばんの問題が第5福竜丸ですよ。報道されたのはあの一隻だけだったでしょ。ところが、実際は1000隻近くの被曝船があったんですよね。皆さんご存知でしたか? その被曝マグロは日本に持ってきて全部埋めたんですよ。知らなかったでしょう。みんなアメリカの力で抑えたんですよね。でも、読売の23歳の若い記者が焼津でスクープしたんですよね。そこから大問題になって、手がつけられなくなったから、あとは全部抑えて隠したんですよ。

 そこで、この核をなんとかしなくてはいけないということで出てきたのが、原発なんですよ。原発は核兵器から生まれたんですよね。核兵器とは兄弟ですよ。

 日本では沸騰水型をGEから、三井商事が持ち込んで、三井グループのトップ企業である東芝と、東京原子力グループに日立が入ってるんですが、ここが沸騰水型のプラントをそれぞれ日本国内で造った。これに日本原電、東京電力、東北電力、中部電力、中国電力、北陸電力が系列になってますね。

 ウェスチング・ハウスの加圧水型は、三菱商事が持ち込んでいた。で、三菱重工が神戸で本体を造ってるんですよ。そしてプラントを持ち、原発をつくり、美浜原発、大飯原発、高浜原発を各地で建設した。悪の権化みたいな会社ですね。四国電力は、伊方原発、九州電力は川内原発、玄海原発、北海道電力が泊原発、その上に、動燃の「ふげん」、「常陽」、「もんじゅ」。

 すごいですね、原子力産業というのは。これでジャーナリズムを抑えているだけのことなんですよ。被曝労働者が少ないからじゃないんですよ。いちばん人間を殺してるから、これを本気で報道されたら原発は止まりますよ、本当に。

 日本のマスコミはすごいんですから。テレビを見てくださいよ。全国ネットですよ。朝日、毎日放送、産経グループ、読売、みんな全国ネットのメディアでしょ。これにラジオ、その上にみんな出版部門を持ってるでしょう。それで新聞5大紙なんて言うんですよ。

 でも内容なんて何もないですよ。小さくったって真実伝える方がいいんですけどね。さらに地方紙があって、機関紙があって、たとえば日本共産党なんか650万部って最大部数出してますよね。でも、ここが困るんですよね。民主主義と言いながら原発を認めてしまってるんですから。

 さて、まさに原発は輸入から始まって、今や原発はすべて国産原発になった。国産になったから大変なんですよね。輸入しているうちに止めればよかった。でも、そのころは、みんな大したことないと思ってたんですよね。平和利用だと思ってたから。

 平和利用じゃないと言ったのはわずかしかいなかった。その頃、僕なんかなんと言われてたか。「異端なカメラマン」なんて言われてたんですよ。異端だって。真実を追究してたのに。

(2005年7月2日 大阪市立生涯学習センターにて)

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